2024/03/05
ファンゾーン
【マッチレポート】3月3日第2節 FC大阪戦
珍しく静まった”後半のニッパツ”に監督が語った見解…完敗とどう向き合うか。見られた改善と課題
「本当に残念な結果になってしまいました」
試合後の記者会見で倉貫一毅監督から開口一番に出た言葉だ。
ニッパツで迎えた開幕2戦目。Y.S.C.C.は FC大阪相手に完敗を喫した。
スローインからのセットプレー発に屈しただけではなく、最後まで反撃の糸口を見出すことはできず、できたことよりもできなかったことが目立ったゲームとなった。
「前半のサイド入れ替えのワケ…そして形になった”積み上げ”」
前半はYSが主導権を握る上々の滑り出しだった。
筆者が特にフォーカスを置きたいのはオフェンス面での部分。これまで取り組んできた、サイドで人数を掛けて崩す攻撃が何度も形になった。12分、16分、19分に21分と、凄まじいテンポで敵陣のポケットを取った攻撃を展開。FC大阪を混乱に陥れた。
上記の攻撃が繰り出されたのは、ほとんどが右サイドから。
この日、普段左サイドのウイングバックとインサイドハーフを務める冨士田康人と道本大飛が揃って右サイドに配置。「相手の右サイドが食いついてくる」という前情報から、倉貫監督はプレッシャーがよりかからない逆サイドに攻撃の起点となれる2人を置く決断をした。
ビルドアップ時には、ウイングバックの冨士田が普段よりも分かりやすく中盤の位置に可変で入り、道本は右の大外に開くという3-3-4のような立ち位置を取り、右サイドでボールを持てばそこにFWの萱沼優聖がライン間に入っていく…冨士田が何度も相手のポケットへ走り込んで侵入し、ゴールまであと一歩のところまで近づいた。
「ボックスの中に入っていくことはできていたと思います」と倉貫監督も手応えは感じていたようだ。
しかし、スコアを見れば数字は0。「最後の精度を考えたときには、クロスのところとシュートのところは、もっと反復してやっていかないといけない」と指揮官も課題を吐露。
それでも、前節の課題をトレーニングでクリアできたとも取れる。今節は再現性のある攻撃を構築できたからこそ、次はフィニッシュの部分。監督が常に語るように、まさに「一歩一歩」だ。
「道本大飛の苦悩。さらなる進化へ乗り越えないといけない壁」
ミックスゾーンに出てきた23番の表情は、いつにもなく暗かった。そうなってしまうのも無理はない。チームは黒星を喫した上、道本個人としても相手の脅威にはなり切れずに73分に交代を告げられている。
昨シーズン、ルーキーイヤーながら2ゴール6アシストの活躍を見せた道本。
J3の中でも一躍注目を浴びるアタッカーに飛躍を遂げた。
しかし、道本は昨季終盤あたりから課題に直面している。注目を集めたことで、相手が試合中に徹底的にチェックをするようになった。マークの人数は増え、ボールを持ったときのプレスも徹底。シーズン序盤から中盤に見せていた左サイドから相手を何枚も剥がすドリブルや、ボールを持ったときの圧倒的なオーラが潜めるようになっていった。
FC大阪戦では前述の通り、右サイドでは相手の驚異となったものの左サイドに戻った後半に最近と同様激しいチェックに苦しむことに。「後半に右サイドから左サイドに流れたときに、相手は対策する準備をしていた」と本人も振り返った。
練習時から常日頃「圧倒的な存在にならないと」と、さらに上のレベルにいくために自分に発破をかけている。対策されても「もう1つ上回れる」個の能力の向上、そして「自分がサイドから中に流れたとき」のプレーモデルの構築という2つの課題に向き合っている段階だ。
「監督は中でも俺にできるプレーを求めています。対策されて厳しくなってしまうようでは、自分がもう1つ上のレベルにいくことはできない」
2年目で直面することになった壁。苦しみもがきながらも、さらなる進化へエースが歩みを止めることはしない。
「約1年ぶりの先発復帰。スタートラインに立った山本凌太郎」
YSの10番が遂に戻ってきた。
心新たに10番を背負って臨んだ昨季。星川 敬監督からも絶大な信頼を寄せられ、彼中心のチームが構築されようとしていた。しかし、シーズン途中に患った病気が重症化。体重は5キロ以上落ち込み、以降はコンディション回復を強いられることに。勝負の年と強い覚悟があっただけに、不完全燃焼の2023年となった。
そして迎えた新シーズン、練習から好調を継続していたことでFC大阪戦で先発に抜擢。昨年3月11日に行われた第2節 ガイナーレ鳥取戦以来となる、約1年ぶりのスタメン入りに。「すごく楽しみな思いだった」と本人も振り返った。
アンカーとして君臨した山本がこの試合で特に意識していたのは「守備と立ち位置」だったという。ビルドアップ時に相手2トップの間に立ち続けることで、2人は自然とアンカーの選択肢を消さなければならなくなる。そうすることで、YSの最終ライン3人に掛けられるプレスがなくなり、より自由にプレーができるようになった。
筆者が同プレーに対しての意図を聞いたことでの回答。
それと同時に本人の中での葛藤もあったことも明かした。
「あそこに立つことによって、FWを閉めて他の人が開くっていう良さはあったけど、 実際あんまりボールに触れなくて。自分のはボールを触って初めて良さが出るタイプ。チームのためにそこに立ち続けるのか、色を出すためにもう少しボール触りに行くのかっていうバランスは考えないといけない」元々司令塔タイプの山本は、狭いエリアでのターンやスルーパスで攻撃に絡んでいくことを得意とする。
自分のストロングを出せなかったことに悔しさを滲ませていたが、「この試合で意識していたことに対して良かった部分と悪かった部分が見えたし、それはここから修正していけばいい。試合に出てトライできたからこそ知れた部分だと思っています」とポジティブに受け止めた。>
約1年ぶりに勝ち取ったスタメン。「まずは今日、試合に出れたことをスタートラインにして、より長所の部分を出せるようにしていきたいです」と前を向いた山本。自身の10番としての価値を証明するため、再起を誓う。
「何も出来なかった後半…珍しく感じられなかった選手からの”士気”」
最後に触れたいのは、選手のメンタル的な部分。2点ビハインドとなった後半、選手たちが下を向くシーン珍しく顕著に見受けられた。
昨シーズン、YSはニッパツで多くのドラマを生み出してきた。リードされながらも後半にリスクを省みずに積極的に仕掛け、終盤に同点や逆転をもぎ取り、本拠地は集まった観客の歓喜の声で包まれた。
しかし、FC大阪戦では”後半のニッパツ”に勢いが生まれることは最後までなかった。
噛み合わなかったバックラインからのロングフィード、前進できるタイミングで後ろに下げるパス、イージーなミスも少なくなく、その一つ一つに各選手たちが苛立ちを見せたり、下を向いたりとネガティブな反応が少なくなかったことは事実だ。
ピッチに立っている選手が一生懸命にプレーしていることを問うのは愚問だ。それは前提として当たり前に置くべき部分。しかし、事実としてあったシーンに対して記者会見で倉貫監督に聞くと「そこはあるのかなと」と切り出しつつ、指揮官も気になっていた部分であったことを明かした。
「仕掛けていって欲しいところでいけなかったのは…確かにその点についてはスタッフとも『どうやったんやろうな』と話していました。メンタル的な問題なのか…しんどかったのか…選手たちと話さないといけないな。原因自体はこれから分析していきたいと思っています」
それでも、倉貫監督が「ただ、メンタルが落ちたり、クオリティが落ちたりしていくっていうことに関しては、絶対に良くなること」と続けたように、意識次第で好転することは間違いなく出来る部分でもある。明日に控えるルヴァンカップに向けて、指揮官は改善へ意気込んだ。
「うまくいかないときはシーズン通してもありますし、ゲームの中でもあります。もう1回そこで、チームとして一体感を持ってやっぱり立ち向かっていかないと。今日は僕らスタッフも含めて、チームに足りなかったことかなと思います」
「2日後にはルヴァンカップがありますけど、そんなことをしていたら必ずやられてしまう。選手たちと話しながら、もう1回奮起してやるべきところだと考えています」
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取材・文=小津那
小津 那 (オヅ ダン)
1999年2月10日生まれ。大学在学中からサッカーライターとして活動し、複数のメディアでの原稿を執筆。
大学卒業後の2021年7月からエルゴラッソ Y.S.C.C.担当記者に就任。
2022年7月からはGOAL Japan編集部を兼務し、Jリーグや日本代表を中心に取材経験を積む。
-------NEXT-------
2024JリーグYBCルヴァンカップ
Y.S.C.C. vs 水戸ホーリーホック
3月6日(水)19:00ko
【会場】ニッパツ三ツ沢球技場