2024/03/01
ファンゾーン
【マッチレポート】2月25日第1節 カターレ富山戦
新シーズンはドローで幕開け…倉貫監督が敷いたのは”現実路線”のレール。語った覚悟と決断
極寒のニッパツ。YSは雨とともに今シーズンの幕を開けた。信じられないような寒さとは裏腹に、ピッチ上では開幕戦特有の熱気が溢れる。立ち上がり16分にYSはカウンターから失点。
一瞬イヤな空気を漂わせたが、ゲームキャプテンの萱沼優聖が自ら得点を奪って断ち切る。
1-1の引き分けでシーズンをスタートさせた。
「ブレない”現実路線」
「勝ちたかったんですけれども、勝てなかったっていうところは少し残念」と振り返ったのは倉貫一毅監督。
昨シーズン途中からの就任で、自身にとってはYSで初めて迎えるシーズン開幕戦。
テコ入れのみに留めた昨季から、プレシーズンは出来ることを増やしていこうと選手たちには伝えていた。
富山戦の試合内容については「現実的に考えたときの力関係で言ったら、こういう展開になるのは普通」だと見解。
ある程度想定内だったという。それでも「勝ちきれないところでは、最後のパスがずれたり、シュートが決めきれなかったりというところ」を課題として挙げている。
昨シーズン、YSは星川敬前監督の下でかなりハードルの高いポゼッションサッカーにトライ。シーズン途中にはハイレベルな要求に対し、食らいついて応えようとする選手たちのキャパシティが追いつかなくなりそうなシーンが散見されていた。
この状況を倉貫監督は客観的に分析し、チームの立ち位置をしっかりと捉えていた。
「僕たちのクラブは、あそこにいきたい。じゃあそこを目指してやろうという意識で、必要なことをすっ飛ばしていくと、足元をすくわれる流れに間違いなくなってしまう」
根本は星川前監督と同じ戦術家。
だが、拘りをもってやろうとすることを優先すると失敗の可能性があることは琉球時代に学んだ。
戦術家だからこそ、チームに還元できる引き出しと選択肢は多くある。倉貫監督はYSでブレない覚悟で”現実路線”のレールを敷く決断をしている。
「継続的に、長い目を見て 、全体を上げていく作業をしていかなきゃいけない。僕たちのクラブはしっかり勝ち点を一試合一試合、1でも取っていくことが非常に重要だと思っています」
「対応力に変化の兆し」
YSにとって、スタートの15分はかなり苦しい展開となった。
富山は4-2-4の形で前線を4人フラットに並べさせる形をとり、ロングボールを2トップに当ててからの攻撃展開を継続。
さらに守備でも4枚が前線に残ってYSのビルドアップに対応していたことで、攻守ともに主導権を握られる。
試合後、監督や選手たちは相手が2トップに当ててくることは「想定内だった」と口を揃えた。
その中で「ビルドアップの際に相手が4枚でかけてくるところで、自分たちは守備でブロックを作りながら意識の流れが、攻撃の方に影響してしまった」と、選手たちが意識しすぎてしまったことで、重心が下がった状態に。既に相手の前線4枚にハメられる立ち位置からビルドアップがスタートすることになった。
今シーズンのポイントとして見受けられたのは、そのような状況になったときの対応力が向上していることだ。
冨士田康人は苦しんだ序盤を受けて「前半途中に(中盤が)もうちょっと高い位置で受けられるよね」と話しながら修正を始めていたという。
そして指揮官も「奥村(晃司)が引き込まれすぎて、中途半端なポジションにいた印象だった」と見解。
セカンドボールもプレスバックしきれない、前への牽制にもいけないという状況を即座に把握し、「もう少しいけとピッチの横から話していたそうだ。
この修正は効果抜群だった。YSの中盤とサイドの選手たちが押し上げたことで、富山の両サイドの選手たちが徐々に2トップと並んで張ることができない状態に。そうなると自然と2トップもプレスに積極的な姿勢を見せずらくなり、GKと3バックはより自由を確保。全体的に押し込む余裕ができたことで、同点弾奪取につながった。
冨士田が重要なポイントとして挙げたのは「試合中に修正できたこと。そしてなおかつ、ハーフタイムではなくて前半の途中でお互いに気づけてやれた」こと。
昨シーズンであれば上手くいっていないことを押し進め、強行突破を図っていただろう。
新シーズンは、上手くいっていないと割り切り打開策を考えるマインドにシフトできる対応力を身につけたことが顕著に分かる。
「大嶋春樹、新たな”カイザー”像構築へ」
昨シーズンに加入し2年目を迎える大嶋春樹に重要なタスクが任されようとしている。
ルーキーイヤーは主にウイングバックを務めることが多かった大嶋。
時には本職であるCBの一角を務めることもあったが、富山戦で使われたCBの中央を務めることは初めてだった。
富山戦では対人の強さや積極的なポゼッション参加で、合格点のプレーに。新境地について本人は「自分の持ち味は出せるポジションではあると思っている」と話し「フィジカルだったり、自分の能力のところでは負けないっていうのは意識しています」との考えを明かした。
同ポジションは、昨季ルーキーイヤーで圧倒的なパフォーマンスを披露し、今季鳥取へと旅立った二階堂 正哉が担当。
YSの”カイザー(皇帝)”として、攻守ともに及第点以上の活躍を見せていた。
昨季の軸にもなっていた位置を同期加入の大嶋が引き継ぐ形に。「ニカはニカでいいところがあって、そこでは僕は劣るかもしれないですけど…」と比較に対して切り出し、新たな”カイザー”像の構築への思いをかたっている。
「僕の良さが出せれば、新しいポジションに必ずストロングとしてつながると思っています。自分の持っている能力では絶対に負けない意識を持つ。両サイドが出ていくチームコンセプトがあるので、自分がスライドしてしっかりとカバーをする…守備では神戸の菊池流帆選手やアーセナルの冨安健洋選手のように、対人では絶対に負けない、僕にもその強みがあると思っているので、それを全面に生かしていけるようにしていきます」
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取材・文=小津那
小津 那 (オヅ ダン)
1999年2月10日生まれ。大学在学中からサッカーライターとして活動し、複数のメディアでの原稿を執筆。
大学卒業後の2021年7月からエルゴラッソ Y.S.C.C.担当記者に就任。
2022年7月からはGOAL Japan編集部を兼務し、Jリーグや日本代表を中心に取材経験を積む。
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3月3日(日)14:00ko
【会場】ニッパツ三ツ沢球技場
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