2023/10/26
ファンゾーン
【マッチレポート】10月29日第33節 テゲバジャーロ宮崎戦
3連勝で勝負強さ光るYS。残り6試合へ”勝って兜の緒を締め続ける”
「今治とのアウェイゲームに勝って戻ってきたときに、次のゲームでもかなり難しい状況になる、危ないゲームになるという話をしてた中で、色々なアプローチをしてきた」
21本のシュートを浴びる一方的な展開となったものの、前半に奪った2得点を死守した32節の今治戦。連勝を手にしたYSだったが、倉貫一毅監督は一切の気の緩みを見せなかった。
そして迎えたホームでのテゲバジャーロ宮崎戦。前半は拮抗した状況が続いたものの、48分に宮崎の選手が1人退場してからは一気にYSペースに。押し込み続けて迎えた84分、小島秀仁のクロスを古賀俊太郎が頭で合わせて均衡をこじ開けた。
これでYSはリーグ3連勝に加えてホームでは4連勝。順位は11位に上がり、クラブ史上最高の順位で終えることも不可能ではなくなってきた(過去の最高順位は8位)。
倉貫監督が見つめるのは「残り6試合」
倉貫監督が就任後、チームは8試合で5勝。さらにここ3試合ではクリーンシートが連続しており、YSに勝負強さを植え付けている。
この数試合、相手にシュートを打たせるシーンは何度もあった。それでも許さなかった失点。監督は「相手にフリーでシュートを打たせない状況が多いとは思う」と、最後の局面での守備陣の頑張りが0に抑えられている大きな理由だと言及。そして選手たちの意識を称えている。
「相手がシュート打つ時には、誰かがやっぱ前にいたり、滑ってきたりという形は、ここ数週間は続いてると思う。トレーニングのところから、彼らが体現してくれてるからこそ」
それでも、指揮官は宮崎戦の内容には満足せず。停滞していた前半の内容については「相手も勝ちたいという気持ちも強く、 なかなかこっちがボールを前に運べない状況で、相手のプレッシャーを食らっていた」と説明。「間を割られて危険なシーンを作られていたというところはあったので、そこは選手と一緒に話しながら、次に向けて向き合っていかないといけないと感じたゲームだった」と試合後に続けていた。
ボールを前に運べなかった原因として「選手矢印が自陣に向いている」と倉貫監督は指摘。ハーフタイムには「相手の動きと意識、そして自分たちの動きと意識も自分たちのゴールに向かっている。もう少し推進力が欲しい」と伝えていたという。数的優位になったことはあったとしても、選手たちは後半に入り、相手のゴールに向けて矢印が向いていたのは明らかだった。
今後の攻撃面での改善に向け、監督が次に着手していくのは「ファーストアクション」の部分。「選手がぐっと追い越す動きをすることで、(相手も含めて)次が動く形になっていく方が、全体としては崩れるようになっていく」イメージを、次節へ向けて選手たちと擦り合わせていく。
最後に、今週のトレーニングでは、倉貫監督はこの現状に一切気を許していけないと「それぞれにはっきり言った」と明かした。「僕が来る前には3連勝した後に6戦勝ちなしになった」事実を挙げ「正直なところ、僕らはちょっとでも緩めると負けていく」とキッパリ。”勝って兜の緒を締めよ”と、改めて警鐘を鳴らしている。
「残り6試合。6試合勝てない可能性もある。だからこそ、今までやってきている”じゃあ、なんで勝ててきたか”を忘れてはいけない」
ヒーローとなった古賀俊太郎
サイドからのクロスが多くなっていた後半終盤。小島のクロスに対して飛び込んでいたのは、中盤の古賀だった。「まさかフィニッシャーとして役割を果たすとは思っていなかった」と本人は明かしたが、いるべき位置を見逃さなかった視野の広さがあってこそ。そして「途中で入る時にエリア内にどんどん入り込むようにと監督から言われていた」指示をしっかりと体現した必然的なゴールだったと感じる。
ラスト15分でピッチに送り出された古賀は「退場が出たので、前半とはまた違って完全に押し込んでっていう状況だった。リズムを作って動きをつける」意識を投入前から持っていたという。
「(個人としては)落ち着かせられるところと出ていくところ。もっとチャンスを作りたかったというのはあるが、相手が1人少なくてそこまで難しくはない状況だった」と試合後に振り返っている。
直近の3試合では途中投入が続いている状況。「得意じゃないヘディングだったが、しっかりと結果で示せて良かったと思う」とここ数試合の鬱憤を晴らすかのようなヘディング弾を喜びつつも「今日のようなプレーを最初から出てやれる選手になりたい」と吐露。
現時点での課題として「運動量だったり激しさだったりというところが一番足りていない、伸ばさないといけないと監督からは言われている」ようだ。ゲームメーカーの役割を任されることが多かった古賀としては、ウィークポイントになる部分だ。
不足している部分をしっかりと受け入れて向き合いつつ監督からの「『絶対的な選手になって欲しい』という言葉に応えていけるようにしたい」と話した古賀。今後のポジション争いへ意欲を燃やした。
小島秀仁がもたらした安定感
「ゲームの入りや前半の相手ペースに対して、我慢できるようになったのが今のYS。我慢をしていき、相手が1人少なくなった状態で最後に得点を奪って勝ったのいうことは、ポジティブに捉えていいと思う」
試合後、このように振り返ったのはアンカーとしてゲームのタクトを振るっていた小島だ。特段目立つような動きはしていない。チームにとって最善となるプレーを常に考え必要な場所に顔を出し、必要なプレーをする。「前半はアクションが少なかったので、自分のところから放り込んだり、縦のボールを出していた。後半に関してはフリーが多くなった中で縦に仕掛けられる選手も入ってきてアクションが出てきた」というコメントからも、その意識は間違いなく伺える。
数的優位な状況や、押し込む展開が続くとこれまでYSは攻め急いでフィニッシュの部分で中途半端になることは少なくなかった。宮崎戦では退場者が出て以降、小島は自身や周りの選手がボールを持つ度に『落ち着け、落ち着け』とジェスチャーをし、一度陣形を整えてから展開させるシーンがこの試合では何度も見受けられていた。この場面については「自分のとこから攻め急がなくても、もっと周りを押し込んだ中でプレーできればいいなという…バランスを見ながらやっていた」と解説している。
倉貫監督が就任する前、小島はケガに苦しみリーグ戦での出場は1試合に留まっていた。新加入選手ながら「前期はケガでチームの力になれなかった」と悔しい思いを吐露。「監督が変わってからケガが治り、こうやってピッチに立たせてもらえている。少しでもチームの力になりたい」一心でピッチに立っている。
9月2日での初先発以降、小島は8試合に出場。先発した6試合では未だに黒星を許しておらず、抱いた思いをしっかりと有言実行している。好調を維持するYSにとって一番の立役者と言っても過言ではないだろう。
「チームが苦しくなった時に、どれだけ自分の力を発揮できるか。周りが気持ちよくできるように、声掛けだったりバランスを与えて見ながらやっていきたい」
復帰後瞬時にチームに欠かせない存在となった小島。残り6試合でのさらなる貢献を誓った。
流れを変えた橋本陸斗。『6戦5発』宣言
待望の新星が戻ってきた。
15歳10カ月26日というJリーグ史上3番目の年少記録でデビューを飾った橋本。さらなる飛躍を目指し、7月末に東京ヴェルディから期限付き移籍でYSに加入。翌月の8月には2試合に出場して才能の片鱗を見せていたものの、負傷によって離脱を強いられることに。
そして迎えた宮崎戦。ベンチ入りを果たした橋本は、57分にベンチから呼び出され、3カ月ぶりにニッパツの芝を踏むこととなった。
「チームが1人多いという状況的に、どういうプレーができるかなというのはベンチから見ていてずっと考えていた」と、これまでふつふつと燃やしていた思いを吐き出すかのように、橋本は左サイドを何度も突破してクロスを上げ、停滞していたYSの攻撃を活性化。指揮官からの「クロスを上げてくれと強く言われていた」要求にバッチリ応えてみせた。
自身にとっても初めてとなるYSでの白星。橋本のドリブルが勝利の流れを引き寄せたのは明白だが、本人は「満足いくものじゃない。結果もそうだしプレーも全然。これで満足してたら話にならない」と一蹴。残り「6試合なんですけど、全部出場して5点ぐらい決めてチームに貢献したい」と話した18歳の目は燃えていた。
この”宣言”に対しては他の記者が「残り6試合で5点を取るっていうのは。本気で?」と再度確認する場面も。しかし、橋本は「なんで嘘つくんですか」と表情を一切変えず。若手特有のギラギラ感、そして彼の覚悟とも取れる一言に、筆者は密かに胸を躍らせていた。
「結果を残したい。試合に出たら全部出し切るつもりの覚悟でこのクラブに来ている。覚悟を見て欲しい」
『6戦5発』を誓った橋本。日本サッカー界を賑わせた男のYSでの物語は、まだ始まったばかりだ。
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取材・文=小津那
小津 那 (オヅ ダン)
1999年2月10日生まれ。大学在学中からサッカーライターとして活動し、複数のメディアでの原稿を執筆。
大学卒業後の2021年7月からエルゴラッソ Y.S.C.C.担当記者に就任。
2022年7月からはGOAL Japan編集部を兼務し、Jリーグや日本代表を中心に取材経験を積む。
-------次節-------
明治安田生命J3リーグ第33節
10月29日(日)14:00ko
vs ギラヴァンツ北九州
【会場】ミクニワールドスタジアム北九州
ハイライト
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明治安田生命J3リーグ第32節
Y.S.C.C. 1-0 テゲバジャーロ宮崎
得点者:84′古賀俊太郎